Column

コラム

Aug 07, 2021

「オーマイゴッド!グランドファーザー降臨」

自分にとっては何の気もない“普通”だけど、

誰かにとって“特別”になってることって、どうやらあるらしい。

 

コラム何書こうか…?

そんなことを考えていたら、祖父との『とある夜の体験』を思い出した。

『とある夜の体験』と言っても、別にヘンテコな話じゃない。

ごくごく退屈な帰省話。

 

入社前フリーターの頃。

富山の祖父の革靴を、磨いたことが一度だけあった。

買ったはいいけど、シューズクローゼットの異空間で埃をかぶってる。

しかもコードバン。

…超もったいない。

ざっくり言うとマニア垂涎、最高級の革。

僻地にポルシェ、出勤して扉開けたら夢の国、たぶんそういうこと。

まだ履き皺もあまり入ってないけど、田舎町の夜、することもない。

家族との大富豪は、無限ループものヨロシク何週目か分からんくらい入っていたと思う。

ちょうど当時、靴磨き沼にハマっていたこともあり、持ち運び用の靴磨き道具はあった。

もう、やるしかないね。

 

【装備】

・モゥブレィのリムーバー(汚れ落とし)

・モゥブレィ、コロンブスのクリーム各種

・サフィールのビーズワックス

・ブラシ、クロス各種

 

だいたいこんな感じで出陣。

夕食後、リビング床に新聞紙広げて、もくもくと磨いた。

最初は、家族一同もの珍しそうに眺めてたけど、我が家の集中力は3分もたない。

デザートに桃なんて食いやがって。

自分だって食いたい。

でも、なんか変な興奮があった。

やっぱ腐ってもコードバン。

靴を磨く人には分かるかもしれないけど、クリームを塗ってくと、革が餌を食べるみたいに吸い付いてくる。

こうなってくると本当に可愛い。

犬猫を見て使う「可愛い」が8割、男子高生が広瀬すずに使う「可愛い」が2割。

気付けば祖父は家族談議に夢中。

横目でたまにこちらを見てたけど、こっちもこっちでお構いなしに自分のためにしていた。

 

2時間くらいぶっ通しで磨き続け、鏡面とまではいかないそこそこの塩梅に仕上がった。

祖父に靴を渡す。

嬉しそうにしてたのかな…?

たぶんお礼は言われた気がする。

それなら良かったと、その時はそれくらいだった。

 

帰京して間もなく、祖父はボケた。

自分ら家族の名前も少しずつ忘れていった。

皆が体験するごくごく一般的なことだし、もっと大変なことなんて世の中腐るほどある。

「ついに来ちゃったかー」

両親もそんな感じ。

いや、諸々そんな感じではないんだろうけど。

子の前では出さないようにしてたと思う。

だから、自分もそれなりに悲しんだ後は、いつの間にか普通のこととして受け入れていた。

 

でも、靴を誰かがピカピカに磨いてくれたということだけは、なぜか祖父は覚えていた。

靴を見ると思いだすんだとか。

まったくオーマイゴッドも良いところ。

いやいやじいちゃん。

自分らのこと思い出してくださいよと思うのだけれど、やって良かったと今では心底思う。

 

靴磨きは、自分にとってはなんでもない、自分のための“普通”。

覚えてたのは偶然なのか分からないけど、祖父にとっては“特別”だったのかな?

 

自分にとって“普通”でも、別の誰かからすると、実はすんごい“特別”な体験になっていることが、どうやらあるらしい。

きっと親孝行だけじゃない。

家族だったり、恋人だったり、友達だったり、お世話になった人たちだったり。

たまには、誰かにそんな“普通”で“特別”ができたら良いなーなんて。